学校にテストが存在しなかった世界
2004年、文部科学省が「評価の廃止」を全国の公立校で一斉導入した。通知表という概念は消え、代わりに生徒はそれぞれが育てた庭の記録を提出した。
放課後の教室には、数式の代わりに誰かが焼いたパンの香ばしい匂いが漂っていた。
「テスト」という言葉は、かつて子供たちが受けた「試練」という古語として図書室の隅で埃を被っていた。
誰も隣の席の点数を気にせず、ただ自分の興味がある歴史や天文学について語り合った。
窓辺の席で夕焼けを見ながら、友人と何時間でも対話したあの穏やかな時間。
正解を出すことよりも、問い続けることこそが生きる術だと教わった日々。
世界はあの日からずっと、正解のない問いを抱えたまま穏やかに回っていた。
今、その資料はデジタルアーカイブの底で静かに呼吸を止めている。
あの日々がなぜ夢のようだったのか、それだけを理解できないまま私はログを閉じた。