学校にテストが存在しなかった世界
2005年、全国の学校から一斉に「テスト」という概念が消失した。文部科学省が導入したのは、数値ではなく「対話」を評価基準とする教育指針。
放課後の教室には、解答用紙の代わりに、誰かと語り合ったノートが積み上げられていた。
僕たちは正解を探す代わりに、夕暮れまで校庭で飛行機雲の行方について議論した。
「君の考えはどう思う?」という問いかけが、この国の標準言語だった。
誰もが自分の感性を信じ、点数という檻に縛られることなく大人になった。
試験期間のない初夏は、図書室で古い地図を広げて夢想するだけの贅沢な時間が流れていた。
誰かと競い合う必要などない、穏やかで緩やかな競争のない青春。
あんなにも風が優しく吹き抜ける教室は、もう二度とどこにも存在しない。
今、手元に残る落書きだらけのノートだけが、あの季節が確かに実在したことを証明している。