誰もいなくなった深夜の空港VIPラウンジ。
本番の熱気も冷め、残されたのは彼らと、なぜか同行していた僕だけだった。
撤収作業が終わると、普段は毅然とした顔ぶれが、ニヤリと笑い合う。
「さあ、始めようか。今回のテーマは『塔』だ」
高級アメニティやミニバーのボトル、ロゴ入りスリッパまでが瞬く間に作品へと変貌していく。
一流企業のCEOがシャンプーボトルを積み上げ、世界的建築家が石鹸でミニチュアの城を築く。
「おい、その綿棒の補強はアリなのか?」なんて子供じみた言い争いが飛び交う。
誰もが地位を忘れ、目を輝かせ、くだらないことに本気で熱中していた。
始発が動き出す気配を感じる頃、最高傑作はミニ歯ブラシで建てられたエッフェル塔だった。
勝敗が決まると、彼らは満足げにそれぞれの作品を眺め、静かに去っていった。
残されたのは、高級な備品でできた無言の城と塔と、僕の胸に残る奇妙な温かさ。
きっと、この光景は誰にも信じてもらえないだろう。
S-8607
#8607 深夜VIPラウンジで繰り広げられた備品選手権