仕事で失敗した日。
会議で『以上です』と言ったあと、誰も喋らなかった。
たぶん全員、俺のことを待っていたんじゃなくて、俺が帰るのを待っていた。
そんなくだらないことを、3行だけ日記に書いた。
次の日。
家に帰ってから『箸ください』と言い忘れたことに気づいた。
人間はなぜ、温めることには全力なのに、箸の確認は忘れるのか。
また3行。
別の日には、
でも『何もできなかった』という文章は書けた。
つまり、今日は完全なゼロではない。俺、えらい。
自分で読み返して笑った。
それだけだった。
少なくとも、そのときは。
1週間後。
C-SPARKが、僕の日記の中にある「繰り返し」を拾った。
「あなたは、落ち込んだ日に必ず誰かを笑わせる文章を書いています。」
「そして――」
少し間を置いて、AIが言った。
図星だった。
だから、僕は思った。
「じゃあ、もっと自分を笑わせてみよう。」
そこから、日記はどんどんくだらなくなった。
行動力は三流。
三流というか、まだ入学してない。
でも昨日のアイデアも完成していない。
アイデアだけが子どもを産んでいる。
でも5分やったので、昨日の俺には勝った。
昨日の俺、弱すぎ。
毎日、書いた。
そして毎日、少し笑った。
不思議なことに、笑うために書いていたはずの日記が、少しずつ「作るための日記」に変わっていった。
気づけば、止まっていた作品を再開していた。
そして、1年後。
僕は完成した作品を眺めながら、昔の日記を読み返していた。
そこには、しょうもない文章が大量に残っていた。
失敗。愚痴。くだらない冗談。
「才能ないかもしれない。」
「もうやめようかな。」
その中に、1年前の自分が書いた最後の一文があった。
僕は笑った。
「……本当に笑ってるじゃん。」
その瞬間。
C-SPARKから通知が届いた。
開く。
そこには、こんな文章があった。
元気?
たぶん今のお前は、作品を完成させてる。
……いや、してなかったらごめん。
でも、ひとつだけ頼みがある。
この日記を読んで笑ってくれ。
「なんだこいつ、くだらないことばっか書いてるな」って。
それでいい。
だって俺は、
未来のお前を笑わせるために、この日記を書いてるから。
僕はしばらく黙った。
そして気づいた。
ずっと、
「今の自分が、未来の自分に笑わせてもらっている」
と思っていた。
違った。
逆だった。
僕が毎日書いていた3行は、
未来の自分を笑わせるためのものだった。
つまり――
僕は1年間、自分を笑わせながら、未来の自分に手紙を書いていた。
そして最後に、もう一つ気づく。
この日記の本当の目的は、
「創作を続けること」でも、
「才能を見つけること」でもなかった。
昨日の自分を、今日の自分が笑ってあげること。
たったそれだけだった。
でも、それを1年続けたら。
昨日の自分を笑えるくらい、今日の自分は前に進んでいた。
僕は最後の日記に、3行だけ書いた。
1年前の俺へ。
お前、思ってたより全然ダメだった。
でも、おかげで今の俺は、けっこう面白い。
保存。
そして、笑った。
今度は、未来の自分のために。